本田不二雄 『へんな仏像』 

年々難しい本を敬遠するようになり、近年はマンガやモノ系雑誌ばかり読んでいる。そんななかで久しぶりに純粋な知的好奇心で手に取った書籍がコレ。

サイズは一般的な青年コミック単行本サイズ。コンビニの本棚に並んでいたので最初は「実録・都市伝説」とか「芸能界のタブー」みたいな与太話をまとめたチープな内容かと思ったのだが、シッカリした仏教知識・仏像研究に基づくマジメな内容だった。光沢紙ではないもののオールカラーで600円というお買い得な一冊。

 『【送料無料】へんな仏像 [ 本田不二雄 ]

この本ではおよそ60体もの異形の像が紹介されているわけだが、ハッキリ言って不気味であり、怖い。世に知られる有名な仏像というのは国内に残るうちの相当に洗練されたものの一部で、良くも悪くも仏教様式と美術品としての価値を同時に備えた「整ったホトケ」なのだと思い知らされる。

本書で取り上げられた像は目的も由来もデザインもさまざまだが、いずれも日本人がもつ根源的な「畏れ」から造られたであろうことは疑いようがなく、たまたま仏教の世界観からディティールを拝借しているだけで実はまったく違うものを見据えているように思える。
遠藤周作の『沈黙』や諸星大二郎の『生命の木』で描かれる「日本に持ち込まれた宗教がいつのまにか歪曲されていくさま」の一端を垣間見たような気分だ。

本書に登場する「ヒトガタの板きれ」や「巨木の形をそのまま残した円柱状の像」も技巧うんぬんではなく、祀らずにはおれない何かを宿しているように思う。

高野山が産土神から土地を借りているように、神仏共存が矛盾しない日本独特の風土が産んだ「人ならざるもの」を畏れ敬うという単純で直接的な生々しい信仰のかたちであろう。


内容を画像で紹介するとネタバレになるので控えるが、隠れキリシタンの「十字架を仕込んだ仏像」や豊穣と繁栄の象徴である「男根・女陰をかたどった性神像」などはあまり大っぴらにされない分野なので非常に興味深かった。
(一部、男女結合の瞬間を彫ったスーパーリアルな木像もあったが、あれは信仰対象というより当時の実用的なズリネタだったのではないかという気がしないでもない。)


とにかく一般人が見ることができない秘仏の写真も少なくないので、珍しい仏像に触れられる貴重な機会だ。社会科(歴史)の資料集を眺めるのが好きだったという人なら絶対楽しめるハズ。オススメ。

[ 2013/01/01 21:43 ] 旧校舎 文芸部室 | TB(0) | CM(0)

齋藤智裕(水嶋ヒロ) 『KAGEROU』 

ゴールデンノイズから借りた『KAGEROU』を読了。タイムリーな現代小説を読んだのは綿矢りさ&金原ひとみ以来か。

まあ…すでにさんざん言われているが、なるべく意識しないようにと思っても色眼鏡で見てしまうのは避けられない作品。読み手としては齋藤智裕という無名の新人作家のデビューに際して読者に余計なフィルターをかけた責任はポプラ社にあると思う。しかし「出来レース事件」という話題作りあってこそのベストセラーであることも否定できない。

 『KAGEROU
「  」(※該当作無し)

マンガレビューのときは心に残ったセリフとか面白いセリフをピックアップするんだけど、残念ながらこれといって特に心に留まる文章はナシ。

ストーリーはまあ平たく言えば、ある自殺志願者をめぐる臓器移植ファンタジーライトノベルでした。
複数のゴーストライターによって手直しされたという報道もあったが、とりあえず物語に大きな破綻はなく無難にまとまっているという印象で、作者が読みやすさを重視したであろう努力のあとが窺える。その甲斐あってか対象年齢は見事狙い通り小・中学生~ゆとり高校生に絞られている。

あれこれ細かいことを指摘するのも野暮なので一言で言うと、全体的にディティールが薄いので「ハリボテ」感がある。もうちょっと背景に肉付けしたほうが深みが出たと思うが、これは好みの問題かもしれない。『ファイブスター物語』とか『安部公房』レベルでディティールに凝れとはいわんが、個人的には創作の楽しみってそういう部分だと思うので勿体なく思う。


一方で帰国子女として海外で培われた感性なのか、不思議な比喩表現もいくつか見受けられた。

kagerou

でもまあ使い古された表現を疑問も持たずに使う作家よりはいい。いっそ英語と日本語の言葉遊びをミックスするなど、生粋の日本語脳では書けないような実験小説まがいの怪作を書いてほしい。

ともあれ齋藤智裕(水嶋ヒロ)の作家としての評価は次回作次第である。

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[ 2011/01/09 16:08 ] 旧校舎 文芸部室 | TB(0) | CM(0)

押井守 『TOKYO WAR』 

せっかく草剛が逮捕されたんで旧校舎も更新しようかな。
今日のお題は押井守『TOKYO WAR』

 『Tokyo war
「・・・・・・この国はもう一度戦後からやり直すことになるのさ」

劇場版アニメ「機動警察パトレイバー2 the Movie」のノベライズを監督自身が手掛けた押井守の処女小説。上下巻で出版されていたもの大幅に加筆してハードカバーにした完全版。以前の版を読んでないのでどの程度加筆されたか不明ですが、オビにはそう書いてあります。しかし買って1日で読み切っちゃったのは、なんか勿体なかったかも。

劇場版アニメは相当繰り返して観たクチですんで小説版にしかないシーンや小説版では描かれないシーンもすぐ頭に浮かびます。そういう視点で比較すると情報量としてはプラマイゼロでした。
まあ劇場版はアニメのワクにとらわれず日本映画でも屈指の出来だと思っているので、小説版にしかない部分も・・・まあなくてもいいか、といったところ。しかし監督自身によるノベライズなので劇場版のイメージを壊すようなものではありません。

大筋ではアニメと変わらないものの、小説版では特車二課という組織の解体についても触れられており、第二小隊メンバーの心情についても多少踏み込んで描かれているのでストーリーよりもキャラが好きな人にはおすすめ。調別の荒川もアニメ版よりイキイキ(?)してます。活字で読んでいてもアニメ版を演じた竹中直人の声で脳内再生されるのが不思議。人間ってよくできてる。

しかし一番カッコイイのは南雲しのぶ隊長(課長代理)。警備部緊急会議での男前っぷりはパトレイバー作品中でも屈指の名シーンだ。

[ 2009/04/23 14:51 ] 旧校舎 文芸部室 | TB(0) | CM(0)

本田透 『電波男』 

これは逃避か、さもなくば大いなる悟りか?現実世界の残酷さに耐えかね、深く傷ついたオタクたちが向かったのはメッカでもなければお遍路でもなかった。

久しぶりの活字モノ、本田透『電波男』を紹介。

【Book】 本田透 / 電波男: 講談社文庫
「もはや現実の女に用はない。
真実の愛を求め、俺たちは二次元に旅立った。」
(オビより)


「キモメン」+「オタク」+「ニート」+「童貞」

他者に愛されること能わず、他者を愛することすら拒絶される身分階級が現代日本に存在する。
筆者はそんな男であり、同時にこの本が購買対象と見込む読者層こそがそれである。そんな本をウッカリ手に入れてしまった バスチアン 伊藤(仮)です♪

・・・い、いやジブンは全くモテないとか、そういうことはないと思うんだけど・・・。アレです、本なんてベヘリットみたいなモンで「あるべき時にあるべき人の手にある」、そんなもんです。


さてこの本の画期的なところは・・・「オタクの勝利宣言」から始まることなんだよッ!

なんだって


はじめに断っておきますが、この本で展開される理論はかなり偏っています。・・・だがそれがいい!
田母神論文を引き合いに出すまでもなく、人間はどんなときでも「自分」ないし「自分の所属するもの」を肯定せねば生きていくことが出来ません。
果たして「キモメン」+「オタク」+「ニート」+「童貞」という属性を背負った男が自らを肯定するために必要な装置と論理は?

それがITによって飛躍的に進化を遂げた二次元恋愛、すなわち「萌え」であり、資本主義と結びつきメディアによって肥大化させられた現実世界(恋愛≒セックス)を否定することだったんだよ!

なんだって


あんまり書くとネタバレになるから内容は伏せますが、オタクの精神構造を理解する上で非常にわかりやすいテキストです、間違いなく。これは「現実」と「二次元」というそれぞれの神を冠した種族同士の、言わば宗教対立に近い認識の相違。二次元にしか存在し得ない、極端なまでに無垢な「真実の愛」しか欲しないオタクを純粋ととるか現実から逃避した社会不適合者ととるかは読者次第。

恋愛資本主義社会において「キモメン」という属性は愛を得るためには圧倒的な不利をもたらします。女性に声をかけて通報されたり嘲笑されたりを繰り返せば誰だって二次元キャラに走らずにいられないと思いますが、自宅で美少女ゲームにハァハァしててもそれ自体は誰に迷惑をかけるでもない恋愛の代償行為です。

しかし『負け犬の遠吠え』『だめんず・うぉーかー』で年齢的に恋愛市場で商品価値を失いつつある所謂売れ残りの女性が「自分にアタックしない情けない男が全部悪い!」というありきたりの結論を述べたあとに決まって「それでもオタクだけは絶対イヤだよね~!」という恋愛弱者たるオタクへの蔑みと嘲りを記す・・・らしい。

作者は「自分たちを傷つけ恋愛市場から閉め出しておきながら、何故今さら何も迷惑をかけていないオタクをそこまで貶めるのか!?」と憤ります。
メディアの作り上げた「消費活動を促進させるための恋愛至上幻想」に踊らされ、男の内面を見ずにちょっと顔の造作のイイDQN男と打算的なセックスを繰り返し、売れ残ってもまだ理想ばかり高い女などこっちからも願い下げだ!
・・・とばかりに脳内嫁をゲットした作者は「現実恋愛のサボタージュ」を宣言
簡単そうに見えてなかなかできないことです。


本文を読めば恋愛とキリスト教の関係をはじめ、日本の恋愛がこういう状況に至った歴史的背景やら文化的背景やらをわかりやすく紹介してくれるので特にオタクでなくても解りやすい内容になっていますが、自説に語り出すと途端にメチャクチャ偏ります(笑)
オタクとDQNと負け犬(とその予備軍)が日本を構成する人口の全て。どちらでもない一般的な人の一般的恋愛観などは気持ちイイくらいスッポリ抜けてる(笑)
でもまあ、オタクが21世紀を生き抜くための『五輪の書』みたいなもんだから、いいか。

オタクの完全勝利によって「萌え≒真実の愛」が浸透すると性犯罪が減る!戦争がなくなる!などのデッカイ風呂敷が狂気じみてて最高。また一大ブームとなった『電車男』、ネットで知られる真の顛末については興味深かった。
あと本文中にはニーチェから井上陽水までオタク的な引用がノンジャンルで散りばめられており、わかる人はその都度吹き出すこと必至。解説つきなので馴染みのないジャンルの引用でも笑えるのがいい。一読の価値は大いにありと見た。

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[ 2008/11/30 03:57 ] 旧校舎 文芸部室 | TB(0) | CM(0)

西尾維新 『クビシメロマンチスト』 

前回「なんじゃこりゃあ!」と思ったにも関わらず、懲りずに買ってしまった。
西尾維新の「戯言シリーズ」第二弾、クビシメロマンチスト


「よう、欠陥製品」
「やあ、人間失格」


前作クビキリサイクル同様、登場人物がことごとく普通じゃありません。『デスノート』の「ジェバンニ」(※)級の御都合主義にして便利なキャラがバンバン登場したとしても驚くにはあたらない。殺人トリックが『金田一少年の事件簿』の「氷橋(すがばし)」(※)レベルでも一切問題はありません。
つまり、

野球と3角ベースでは最初からルールが違う

・・・という前提条件の違いを自覚して読むべきものとみつけたり。
とはいえ、つまらなかったかといえば決してそうではない。むしろ2冊目だからか楽しみ方がわかってきたように思います。推理モノの形態をとったラブコメ風味のヤンデレ小説・・・?

登場人物の感情と行動原理がことごとく常識を超えるため一般的な推理では解答に追いつけず、突拍子もないと自分でも思いながら消去法で犯人を考えますが結局動機の部分では常軌を逸していたり。
正直ついていけない部分もありますが、自分にとってはなかなか文章に新鮮味があって楽しめます。言語学者が読んだら激怒しそうな日本語だったりしますけど。

さてこのクビシメロマンチストですが・・・なんというか主人公の壊れっぷりが見所でしょうか。前作はただのヘタレかと思ってましたが2巻ではその異常性を遺憾なく発揮しすぎ。クレイジー。変人たちの事件に巻き込まれる当の本人もまわり以上にかなりの変人でした。
本作についてネットでチラっとググった結果、「中2病」という言葉を初めて知りました。そしてすべてはこの一言に尽きる、と確信。映画も文学もマンガも音楽もゲームもブログも「面白さ」の根本はコレだろ、と。それを知り得ただけでもこの本との出会いには充分意味がありました。

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[ 2008/09/24 13:10 ] 旧校舎 文芸部室 | TB(0) | CM(2)