ヤクザ漫画の第一人者といえば
立原あゆみをおいて他にない。代表作
『本気(マジ)!』や
『JINGI』なら目にしたことくらいはあると思います。よく床屋などに
「実験人形ダミー・オスカー」なんかといっしょに置かれてたりしますね。
しかし伊藤(仮)が初めて
立原あゆみ作品に触れたのはマイナー時代のヤングアニマルで連載された
『青の群れ』でした(それ故にこの作品自体もかなりマイナー)。
青の群れ(1)「オレが言ってんのは人間の誠実についてだ
惚れてりゃ誰の子だってオレは育てる」(作中より)
渋い、渋すぎる。
立原あゆみ作品にしては珍しく主人公はサラリーマンです。いわゆる熱血サラリーマンものですが、大学出たての新米サラリーマンの口から上のセリフはそうそう出るものではないと思います。他作品の主人公と比べてもスーツに柄が入ってるかどうかの違いだけで、度胸の座り方が素人のそれではありません。
なにしろ第三話にしてさっそく本職のヤクザ(指名手配中)と殴り合い。このマンガは
「酒・女・ケンカ」の3要素だけで成り立っているようなフシがあります。
「ケンカはまだ現役すから」と横領してる上司をボコッてみたり、反りの合わないお局さんがけしかけてきたボーイフレンドを割れたビールビンでエグッてみたり。
主人公は呟きます。
「やくざか オレは」・・・自覚してなかったようです。
さて、今回の記事を書くにあたり調べてみたところ、
立原あゆみは
男性だそうです。ずっと女性だと思ってました・・・。なにしろこんな線の細いタッチで、少女マンガも描いている作家です。ヤングアニマルの白泉社とも系列の少女マンガ誌を伝っての人脈だと思いますし・・・。不勉強でした。
私に女性作家と思わせた一番のポイントは作中に散りばめられた詩的なモノローグです。今回はサラリーマンものということもあって素人(一般人)の持つ生活感と、それに伴う切なさみたいなものが作中に充満してますが、急に惚れちゃった女への愛を「透明な氷」に喩えたり。このへんの繊細なセンスはお世辞抜きでマンガ家ではなく詩人でもそこそこ成功したんじゃないかと思います。
その繊細なセンスで描かれる
任侠 サラリーマンドラマ。もう書店では売っていませんが、古本屋などで見つけたら是非手に取ってみてほしい一冊です。
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